遺伝的多様性
ようやく梅雨が明けたと息つく間もなく、今度はうだるような猛暑に襲われて…ついエアコンを強くしたくなりますが、体調など崩さないようにお気を付けください。僕は先日それで寝込んでしまいました。40℃近い熱が出たのは何年ぶりでしょうか…こんにちは、スタッフの正貴です。
前回は花が咲くのがいつのタイミングか、ということから、ハチの話になって終わりましたね。
今回はそこから膨らませて、遺伝子の話をしようと思います。
京都森林整備隊では、業務やイベントなどで、様々な樹木の苗木を植栽しています。
一般的に林業をしている人はスギやヒノキなど針葉樹だけ、広葉樹は植えてもモミジやケヤキくらいしか植えないところがほとんどです。ですが僕たちはモミジにしてもイロハモミジ、オオモミジ、ハウチワカエデ、コハウチワカエデ、テツカエデにチドリノキ…数多くのモミジの仲間を植えています。
僕たちが植えるのは、主に「京の苗木」に登録されている樹種です。京の苗木というのは、京都の自然の中に生息していた樹種について、京都に生えている親木から種を採取し、育成した苗木です。生まれも育ちも京都人、みたいな感じですね。この京の苗木に登録されている樹種が、全部で107種あります(育成中で販売していない種類を含む)。この膨大な樹種から、植える場所の土、水、光、気候、周辺の植物など、様々な条件を考慮して、最適な樹種を選択して植えていきます。これを「適地適木」の考え方、と言います。その場所に最適な木を植える、という考え方です。
どうして京の苗木に登録されている木を植えるかというと、遺伝的な多様性を守るためです。京の苗木は先に説明した通り、もともと京都に育っていた樹から採取された苗木です。つまり、京都で育つのに適した遺伝子を持っている、ということです。ここに他の場所で育った苗木を混ぜてしまうと、やがて京都では育っていけない種類の樹になってしまう可能性があります。
たとえば野生のケヤキは、北は青森県、南は鹿児島県まで生息しています。ここで青森県のケヤキを鹿児島県に持っていき、交配し、種を残したとしましょう。するとこの子どもは、鹿児島のケヤキよりも、寒さには強いが暑さに弱いケヤキになるはずです。青森のケヤキは寒さに強い代わりに、暑さに抵抗する遺伝子が少ないためです。これをどんどん繰り返していくと、やがて鹿児島の暑い環境に適応できないケヤキばかりになってしまいます。
もちろん、これは極端な例でしょう。ですがこのような事態が起きないとは限りません。だからこそ、不用意に遺伝子は混ぜ合わせず、その土地に生きている遺伝子を使うべきだ、ということです。
以前にお話ししたハチの話に戻りましょう。ミツバチは、数キロメートル程度なら花粉を運び、植物の受粉を手伝ってくれます。これは裏を返せば、数キロメートル離れていても、そこには同じ遺伝子を持った植物が育っている、ということになります。その土地に適しているか、そこで苗木は育つことができるか、という判断を下すための材料のひとつになるわけです。
山や森の植物たちは、その場所で生まれたら、一生そこを離れることはありません。だからこそ、いかに生まれた場所に適した遺伝子を持っているか、が重要になってきます。
僕たちはそういったことを考え、樹を植え、森林再生に取り組んでいます。