優しい一言
京都と言えば和食のイメージが強いですが、パンの消費量が日本一だそうで、洋食文化もしっかりと根付いています。創業100年を超えるレトロな洋食店もありますし、地元の人が静かに通う小さな店もたくさんあります。
私が気に入って時々訪れる定食屋さんも、そのひとつです。ご夫婦で切り盛りされていて、ご主人が作る洋食は驚くほど丁寧で、どこか懐かしい味がします。店内は10席ほどのこぢんまりとした空間で、昼時には外に列ができるほどの人気店です。
そんな中で、私が密かに楽しみにしているのが、給仕を担当されている奥様の柔らかな雰囲気です。声のトーンも、立ち居振る舞いも、店の空気をふわっと和らげてくれます。料理が運ばれてくると、必ず「ご飯の量はこれで大丈夫ですか~?」「ごゆっくりどうぞ〜」と優しく声をかけてくれます。その言葉を聞くと、忙しい日でも少し肩の力が抜けます。
食べ終わって、席を立ち、会計を済ませようとレジに向かいます。外には次のお客さんが待っているし、私も「食べたら早めに席を空けよう」と思っています。そんなタイミングで、奥様がにこやかに放つひと言。
「ゆっくりしていってくださいね〜」
……えっ、今? もう帰るんですけど?
毎回ちょっと戸惑います。けれど、なぜか笑ってしまいます。そして、なぜか嬉しいです。文脈としてはズレているのに、心にはちゃんと届く優しさがあります。
このひと言を聞くたびに思います。京都の優しさって、説明できるものじゃないのかもしれません。言葉の意味が正確でなくても、声のトーンや表情、店の空気と合わさると、別のメッセージが浮かび上がってきます。
「急がなくていいですよ」「あなたのペースで大丈夫ですよ」
そんな“気持ち”だけがふわっと伝わります。京都の人は、必要以上に踏み込まないし、過剰に構いません。でも、その距離感の中に、静かな配慮が潜んでいることがあります。
店を出て歩きながら、「なんで帰るときに“ゆっくり”なんだろう」と毎回思います。でも、気づけばそのひと言がじんわりと心に残っています。意味はズレているのに、温度だけがちゃんと残ります。不思議な優しさです。
京都の優しさは、派手でも分かりやすくもありません。けれど、こういう“ちょっとズレた温度”の中に、確かに存在しています。そんな優しさを見つけた日は、なんだか少しだけ心が軽くなります。
銀葉アカシアの蕾が膨らんでいました。もうすぐ開花しそうです。待ち遠しいですね。
こちらはパールアカシア。少しずつ蕾が大きくなってきています。

