緑の砂漠

スタッフの正貴です。

最近は猛暑に耐えながら、左京区宝が池公園にて調査作業をしています。暑い中での作業は辛いものがありますが、伐採や草刈りなど、どの作業においてもけっきょく暑いことには変わりないので、水分を摂りながら地道に進めております。

さて、宝が池公園といえば、周長約1500mの宝ヶ池を中心として、山に囲まれた自然公園です。池を泳ぐコイやカメ、カモなどの野鳥、多くの生き物の姿を見ることができるスポットです。僕は小学生のイベントでマラソンをしに来たのをよく覚えています。

ところで、皆さんは宝が池公園の山の中に足を踏み入れたことはありますか? 実は山の中にも園路が広がっていて、散策を楽しめるようにもなっているのです。調査作業中にも多くのハイカーさんに遭遇します。

緑豊かな自然公園ですが、山の中にはこんな景色が広がっていることも。

薄暗くて、土や落ち葉で茶色の世界。青々とした葉っぱはまばらに生えているだけ。遠くから見れば一面に緑が広がっているのに…。

これは「緑の砂漠」と呼ばれる景色です。樹木はあるけれど、その下に生えている植物が少ない…という状況のことです。本来は放置された人工林においてよく用いられる言葉ですが、広葉樹林においても同じように発生します。

緑の砂漠はどうやって起きるのでしょうか。発生のメカニズムは単純で、木が大きくなるまで他の植物を刈り続けると起こります。初めに植えた、あるいは生えてきた木が大きくなり、どんどん大きくなり、ついには空を覆うくらいに大きくなると、地面に光が当たらなくなります。そこまで成長した木の下には新しい植物が育つことができません。陰でも耐えられる植物が細々と残るだけです。

スギやヒノキを育てる人工林では、育てたい木が決まっているので、他の植物は当然刈り取られます。邪魔が入らない環境でのびのびとスギやヒノキは育ちます。しかしその後、伐採されることなく森林を放置しておけば…緑の砂漠が完成する、というわけです。

それでは、宝が池公園ではなにが若木の成長を妨げていたのでしょうか。定期的に草刈りが行われていたのでしょうか。もしかすると草刈りをして管理されていたのかも知れませんが、詳しいことはわかりません。ですが、現在、新しい木が育たない原因は容易にわかります。

シカです。宝が池公園では、野生のシカが多く生息しています。すっかり人に慣れているのでしょう、少し近づいたくらいでは逃げることもありません。

このシカが、下に生えてきた若い植物を根こそぎ食べてしまいます。シカは1.5mほどの高さまで口が届くと言われ、この高さまでに生える枝葉はすべてシカの食糧となります。

また枝葉のみならず、幹を傷つけることも問題です。オスのシカが角を幹にこすりつけて研いだり、樹液を舐めようと樹皮をめくったり。

現在、シカによる緑の砂漠化が日本全国で起きています。新しい木が育たず、古く寿命が近い巨木ばかりの森。シカによる森林破壊と言ってもいいでしょう。これを防ぐために、様々な試みが行われています。その中でも現状として有効なのは、ネットや柵で敷地を囲い、シカの侵入を防ぐ方法です。こうすれば、シカに食べられることなく、若い木が育つことができます。

僕たちが木を植えるときは、必ずシカの被害を防ぐ方法を考えます。どうすれば食べられないか、健全な森を作ることができるか…。これは僕たち人間と、シカ、ひいては自然との知恵比べです。

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