天然生スギ
京都の森林を見て一番驚いたことは、天然生の針葉樹それもスギがあることです。
それまで、スギは植えるもの、天然では屋久スギや秋田スギの一部ぐらいしかないと思っていました。
京都市の北部の山間地域には、峰床山(みねとこやま)や皆子山(みなごやま)など900mを超える山があります。
この地域は冬期に最低気温がマイナス10℃以下で積雪が100cmを超えることがあり、日本海型気候ともいえます。
天然生のスギは、花背や京北また広河原・久多などの中腹から尾根部にかけてみられます。
葉を握って大変痛い屋久スギとちがって、葉の形が雪を落としやすいよう細くて強い鎌状になったスギで、ウラスギと呼ばれます。
またこのスギは枝や幹から発芽する力が強く、また雪圧で地に付いた枝から発根し、新たな木となることができます。
これは伏状更新(ふくじょうこうしん)といわれます。
また幹を切ると、その脇からも発芽し、数本の幹が株立ちになることがあります。
これは萌芽更新(ほうがこうしん)といわれます。
その形から台杉(だいすぎ)とも呼ばれ、巨大なものは櫓杉(やぐらすぎ)とも呼ばれています。
櫓杉の分布では、特に花背の井ノ口から京北の片波にかけての峰は迫力ある伏状台スギの群落が見られます。
また花背の大悲山の国有林には「三本杉」と言われる樹高が60m近い府下で最高のみごとなスギがあります。
床柱(とこばしら)や垂木(たるき)などの丸太を育てる京都の北山杉もそのルーツはウラスギと考えられ、北山磨き丸太のスギも昔は「台杉仕立」で育てられていましたし、垂木生産は今でも台杉仕立です。
台杉仕立の利点は山を荒さないで、土壌が樹木を育てる力(地力(ちりょく)という)を維持しながら新しい後継樹(こうけいじゅ)を育てることが出来ることですが、その幹や枝の管理には大変高度な技術が必要です。
やはり地域の気候やスギの特性を十分考えた、歴史的な伝統技術と言われるものです。
ふと、むかし屋久島の花之江河から宮之浦岳に登り、翌日疲れて縄文杉の根元で昼寝をしていたらかわいいヤクジカに起されたことを思い出しました。
その後ウイルソン株を見て、森林軌道跡を下った時、20cmぐらいのスギの苗を見つけました。
このスギの苗を頂いて、宮崎の田舎に植えたことがあります。5本のうち3本ほどが生き残り、60cmぐらいまで元気に育ちましたがついに枯れてしまいました。植えた場所が畑の隅でどうも窒素分が多すぎたみたいです。
天然の樹木はやはり厳しい環境でこそ育つものなのですね。